ドクターズインタビュー

まずは地域を知って好きになってほしい
すると、自ずと自分の将来も見えてくる

北茨城市民病院 内科
中村 真季  先生

地域医療を目指したきっかけは地域での実体験

私は茨城県守谷市の出身で、中学生の頃までは学校の先生になりたいと思っていました。ですが、ある時テレビの特集で院内学級というものを知り、高校生の時に筑波大学医学部付属病院の小児科にある院内学級を見学できる機会に恵まれました。

その際に医師から「いざという時に子どもを救えるのは小児科医だから、医者を目指しては」と言われたのをきっかけに小児科医を目標とするようになりました。そして自治医科大学に入学し、今は医師となって10年目になります(2022年現在)。

ただ、私は現在、小児科医ではなく内科医として働いています。いくつかの転機があり、地域医療に貢献したいと思うようになったからです。

最初の転機は大学6年生の時の選択実習でした。カナダでの1カ月の実習でしたが、現地のドクターから家庭医とは何かを学ばせてもらい、漠然と家庭医にあこがれるようになりました。

また、同じ6年生の時に、大学の先輩が働いている静岡市国民健康保険井川診療所での実習も経験しました。この診療所はSLで有名な大井川鐵道の井川線終着駅よりもさらに谷を入ったダム湖畔にあります。“これが地域医療なんだ”という貴重な体験をし、先輩のように地域の医療をつくりあげることのすばらしさを感じて、地域医療に携わりたいという思いが強くなっていきました。

以後、秋田や東京の病院での研修を重ね、ドクターカーやドクターヘリへの同乗が叶うなど貴重な体験にも恵まれましたが、中でも印象深かったのは、秋田県の仙北市立田沢湖病院での体験でした。
わずか70床で医師は自分を含めて3名しかいないという小さな病院でしたが、地域の方々の治療後の人生まで支えているという実感がとてもあり、まだ新米の私でも地域の医療を支えられているのではないかと思えたことは、地域医療を目指すこととなった今の自分に深く関わる経験だったと思っています。

我が子の笑顔に励まされながら、様々な取り組みにチャレンジ

研修5年目からは茨城に戻り、2年間は常陸大宮済生会病院で内科を担当していました。
ここでは2つの取り組みを経験しました。

一つは、禁煙外来の立ち上げです。もともと禁煙成功率は34%くらいでしたが、看護師さんと一緒に取り組んだ結果、最初の年(平成28年)は62.5%に、翌年には80%まで上げることに成功しました。
もう一つは院内デイケアです。スタッフたちと一緒に取り組んだ結果、認知症患者さんの新たな側面を発見できたり、人間としての尊厳を確立することの重要性を再認識させられたりと、看護師さんたちの意識や対応の変化にもつながりました。

そして結婚・出産を経て、昨年(令和3年現在)6月からは北茨城市民病院の内科医として勤務しています。感染病棟もありCOVID-19の患者さんへの対応など大変ですが、病棟患者さんの管理と共に、初診・定期・禁煙そして救急といった各外来への対応などがメインとなっています。
当直は月4回程度、オンコールは月6回程度で4回は当直との兼務です。

週間スケジュールでは、私の場合は幼い子どもの保育園への送迎などもあり特殊なので、循環器内科を志望している他の先生のスケジュールもご紹介しておきます(表1)。

表1

表2

また、1日では曜日を火曜日を例とすると、表2のような感じになります。
出勤は7:30くらいで、午前中は病棟回診や各カンファレンス、午後は家庭医療センターでの訪問診療や内科カンファレンスがあり、子どものお迎えがあるので18:30頃に退勤するのが普通です。
21~22時くらいには子供と一緒にバタンという毎日ですが、やはり子どもが笑顔で待ってくれていると、疲れも吹き飛びますね。(笑)

一方、取り組みとしては週間スケジュールにもあるように、訪問診療と老人保健施設での研修をそれぞれ週1回やらせてもらっています。
理由は、市内の患者さんや老健の利用者さんと顔が見える関係を築いて、病院との橋渡しができればと思っているからです。

また、院内で摂食・嚥下チームを立ち上げていますが、歯科口腔や嚥下内視鏡の先生方をはじめ、歯科衛生士・言語聴覚士・看護師・栄養士さんたちと一緒に、嚥下機能の評価はもちろん、“せめて味だけでも”という思いから、摂食困難な患者さんにはアイス棒を使った取り組みなども行っています。

あるいは週1回の療養病棟カンファレンスでは、病棟の師長や退院調整看護師、メディカルソーシャルワーカーなどと一緒に、さまざまな事情で転院や療養先の調整が進まない方に対する支援に取り組んでいます。

地域の病院の役割について思うこと そして、皆さんに伝えたいこと

こうした取り組みの背景には、その人の人生を豊かにするために人生もサポートするのが地域医療だ、という思いがあります。

療養病棟にしても、病気が治れば即退院となる患者さんはあまりいないので、治療後の患者さんの生活支援まで考えていかなければならないのが、地域の病院の役割だと思います。そこで当然、介護保険や施設の仕組み、あるいは訪問看護制度の知識も必要になってきます。

一方で問題となるのは専門性との整合性です。いろんな意見があると思いますが、私は専門的治療が必要な人はきちんとトリアージして、地域の病院との役割分担が必要だと考えています。

その理由は、医師の技量だけで何とかなるものではないということと、スタッフの差です。規模の大きな病院と地域の病院とではスタッフの数も大きく異なるので、限られた人的資源を最大限に生かすためには、地域で診続ける患者さんと専門性の高い医療機関にお願いする患者さんを適切に見分ける必要があり、それも地域の病院の役割だと思うのです。

このように地域の病院を見直すと、救急患者さんへの治療はもちろんですが、療養環境が整わない患者さんの調整、帰宅できるまでのリハビリ、あるいはがんの末期患者さんへの入院対応なども、地域の病院の大きな目標であるべきではないかと思っています。

在宅診療ももちろん大切ですが、実際に経験してみて感じるのは、一人住まいで最期まで自宅で過ごせない人も多いという現実です。
そんな患者さんが地域の病院に入院して最期を迎えることになったとしても、患者さんやそのご家族が“良かった”と思ってもらえるようなケアを提供することも、地域の病院の大切な目標だと思うのです。
現実はコロナ禍の影響も大きく、悩みながら取り組んでいますが…。

私も少し前までは、地域医療も全人的に対応できるのが理想だと思っていました。
しかし現実には、私は総合診療科と自信を持っていえるほどではないし、“自分は何科の医師なんだろう”と悩んだ時期もありました。

今回、このように医師を目指す方々へのメッセージとしてお話する幸運に恵まれ、改めてこれまでを振り返る絶好の機会となりました。
一つひとつ振り返ってみて出た結論は、自分が得意なのは仲間を見つけて巻き込みながら、新たな取り組みをすることではないかということです。
いわば私は“なんでもない科”であり、だからこそいろんな方々を巻き込むことができるのではないかと思うのです。

皆さんはまだ、具体的な医師像が定まっていないかもしれませんが、私からアドバイスできるとすれば、それは早いうちから得意なことを見付けほしいということです。

将来は在宅医療により深く関わり、地域の方々の健康も支えていきたいと思っていますが、研修医や後輩たちの教育にも力を入れているところなので、地域の病院でも学んでもらえることがあるように、さらに頑張ろうと思っています。

人と関わることで違う世界を知り、地域の魅力にも触れてほしい

最後に、唐突ですが、カリスマ美容師と医師についてお話します。
何の関係が?と思われるかもしれませんが、私は両者には似ているところがあると思っています。

“年配だからいいとは限らない” “どこで修業したかが技術に関わる” “都会に偏っている”“同じ人だと安心する” “得意・苦手をいいにくい”といったことを考えると、やはりカリスマ美容師と医師は似ているところが多く、ならば医療もサービス業という側面が強いと思うのです。
サービス業として考えると当然、医学的知識や技量だけでなく、コミュニケーション能力やオ・モ・テ・ナ・シの心も重要だと気付きます。

ですから、まだ学生だという方なら、いろんなことに興味を持って大学から飛び出し(今はちょっと難しいですが…)、医学部以外のいろんな世界の人と関わってほしいと思います。
そして、オ・モ・テ・ナ・シの心を体験したいのなら、私の一押しはディズニーランドです!(笑)

研修医になれば、いくつかの地域で研修期間を過ごすことになると思いますが、ぜひ、その地域を好きになってください。
好きになるためには当然、その地域を知る必要があります。どんな食べ物があり、どういう観光名所があるのか、あるいは地域産業は何か、といったことを知ると、自然とその地域に必要な医療というものも見えてきます。

地域で働くことになれば、ぜひ地域住民の一人となって、たくさん観光しておいしいものを食べて、地域の方々といっぱい触れ合ってみてください。
そうすれば辛いことがあったとしても、全体としては楽しい思い出になり、きっとあなたの将来像づくりの助けになると思います。